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「チルドレン」 伊坂幸太郎 著

「短編集のふりした長編小説」
と、作者自身も公言している通り、収録されている5編は時系列はバラバラで語り手も異なるけれど、登場人物は少しずつ重なっている一貫した物語です。

各エピソードの真ん中に居るのは、陣内という一風変わった男。

とにかく「俺様」で、空気はあえて読まないし、行動はハチャメチャで・・・
だけど、間違ったことは言ってないし、不可思議な魅力に溢れている。

こんな人間が知り合いに1人くらい居ても良いかもしれない。
退屈しなくて。
恋人・・・とかには、したくない。
そこまで近いと、たぶん、生きた心地がしない。

最初の「バンク」は銀行強盗の話。
陣内の友人・鴨居が語り手。
このとき、陣内はまだ大学生だ。
このネタをパクったんじゃないかと思われるドラマを見たことがある。

次の「チルドレン」と「チルドレンII」では、家庭裁判所の調査官となった陣内の働きぶりが、その同僚の武藤の目を通して描かれる。

「レトリーバー」は、陣内の失恋話。
銀行強盗事件で知り合った盲目の青年永瀬と、その恋人優子が登場する。
時期的には、陣内、大学卒業間近らしい。

「イン」は、永瀬が語り手となる。
生まれた時から光の無い世界で過ごして来た永瀬ならではの感性が生きている作品。

陣内のキャラも良いけれど、この永瀬と優子も、なかなか素敵な人たちだ。
恋人の介助犬に嫉妬してしまう優子が可愛い。
 
 
伊坂幸太郎の描く人間たちは、なんてことは無いんだけど、みんな素敵なんだよね。
すごい経歴の持ち主とか、特別な能力の持ち主とかではなくて、ごく普通に生活している人たち。

そんな中に、稀に陣内みたいな変わり種が居て、ちょっとした事件が巻き起こる。
日常に潜んでいる、ささやかなミステリー。
それに振り回されたり、振り回されなかったりする、優しくて細やかな感性を持つ普通の人たち。

作品全体を包み込む、そんな穏やかな空気が、私が伊坂作品を好む理由の1つ。

この「チルドレン」も、ほっこり癒される良作でありました。
 
 
 
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