「誰か」 宮部みゆき 著
久々に読んだ宮部さん。
1人の男が自転車に轢き逃げされ、命を落とした。
男には2人の娘があった。
妹の方は逃げ続けている犯人を見つけ出す手がかりにするため父の生涯を本にすることを望み、姉はそれを渋る。
亡くなった男は、さる財閥の会長の運転手を長年に渡って務めていた。
男の死を悼み、残された娘たちの心中も思いやる会長は、姉妹の相談役として娘婿に白羽の矢を立てた。
その娘婿が、主人公である杉村三郎。
いわゆる「マスオさん」状態で、人もうらやむ「逆玉の輿」
結婚を機にそれまで勤めていた出版社を辞め、義父の会社に転職したものの、微妙なポジションに置かれている。
杉村は姉妹と接するうちに、亡くなった老運転手の過去について興味を持つようになる。
独自の調査を続けて行った杉村は、やがて埋もれていた「過去」を暴きだす・・・
ミステリーなんだけど・・・
なんとなく、中途半端な感じがしたのね。
ミステリーといっても「すごい!」と唸る程の謎が潜んでいた訳でも無いんだよね。
「ふぅん・・・」で終わっちゃう程度。
そんなハンパな「事件」だったら、いっそのこと「事件」なんて無くても良かったんじゃないか、と。
姉が幼い頃に見た恐ろしい光景も、実はぜんぜん大したことなかったってオチでも。
殺人事件が無くたってミステリーは成り立つということを、北村薫さんが証明しているではないですか。
歳の離れた姉妹という設定は良かったと思う。
両親と暗い思い出も共有している姉と、明るい思い出しか持たない妹。
2人の確執を絡めつつ、焦点を亡くなった老運転手の生涯を辿ることにしぼっていれば、それだけで十分に面白い作品になっていたんじゃないかな。
なにしろ、主人公の杉村が誠実で心優しい良いキャラクターなのだ。
事実を追って行く探偵役がこの人でなかったら、とんでもなく後味の悪い話になってしまうところだけど、かろうじて踏みとどまっている。
それで、姉が「忌まわしい過去」と思っていたものが、実はそうではなかったというオチになっていたら、よりいっそう清々しい読後感になっていたような気がする。
そういう意味では、最後のあれも、要らなかったと思う。
ケータイの着信音がどうのこうのって言い出した時点で、すぐにピンと来てしまった自分にとっては蛇足以外の何者でもなかったし、そこまで暴いてしまうのは杉村っぽくない気がした。
本編に直接関係の無いところまでキャラクターを描写する(それって、スティーブン・キングの影響なのかしら?)のは宮部さんには珍しくないことだけど、今回はそれが裏目に出てしまったかな?
もっとも、宮部さんがこの小説でやりたかったのは、ことさら毒々しい人間模様を描くことだったのかもしれない。
だとしたら、この件も蛇足ではないんだけど・・・それにしては、毒々しさが足りない。
もっとエグくやっちゃっても良かったんじゃないだろうか。
というわけで、いずれにしても、「中途半端」な気がしたのだ。
杉村一家はとても素敵なご家族で、これっきりにするのは勿体ないと思っていたら、ちゃんと「名もなき毒」で再登場されているようで。
そっちも読んでみるかな。
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