« シャドウハーツ 2 今更だけど攻略日記だ #29 | トップページ | シャドウハーツ 2 今更だけど攻略日記だ #30 »

「グラスホッパー」 伊坂幸太郎 著

ハードボイルドファンタジー?
そんなジャンルは恐らく公式には存在しないだろうが、この小説はそうとでも言うしか無いような気がする。

なんたって、殺し屋がゴロゴロと出てくる。
人もバンバン死ぬ。
怪しげな連中がうごめく、いわゆる「裏社会」のオハナシだ。
インファナルアフェアだ、アンタッチャブルだ、ゴッドファーザだ。いや、そこまでは行かないか。

そのくせ、バラバラだった物語がくっつくように登場人物たちを導く「つなぎ」は、誰かの妄想だったりする。
ハードボイルド小説愛好家に怒られそうな非現実的な展開を見せる。
でも、それが「普通」なのが伊坂幸太郎ワールドなのよね。

この作品は(伊坂作品にはよくあることなのだが)多視点・一人称で、ほぼ同時進行で異なる人物のエピソードが綴られていく。

今回の主人公は3人。

1人めは鈴木。

妻を殺した犯人への復讐を企んでいる男。
遊び半分に人を轢き殺しておきながら、法の裁きを受けることも無く、犯人はのうのうと生きていた。
そのため、その男の父親が経営する会社(とは名ばかりの犯罪組織)に潜入し、その機会をうかがっている。

2人めは鯨。

巨漢ゆえに「鯨」と呼ばれるこの男の職業は、殺し屋。
自らは直接手を下さずにターゲットを自殺させるという、一風変わった手口を用いる。
ある種の「暗示」能力を備えていると言うべきなのだろうが・・・
「側に居られるだけで気が滅入って死にたくなるような男」というのも、広い世の中に1人ぐらいは存在するかもしれない。
鯨は、これまでに自殺させて来た人たちの亡霊に悩まされている。

3人めは蝉。

「ナイフ使い」という、きわめてオーソドックスな手法を得意とする、これまた殺し屋。
鯨などに比べれば、かなりリスクの高い方法を用いながら平然と数々の仕事をやってのけているところを見ると、腕は良いのだろう。堂々と自慢できる類いの能力ではないが。
彼は自分の上司にあたる人物に対して強い不満を抱いている。
 
 
そして、この3人の中心に居るのが「押し屋」
「押し屋」は道路や駅のホームで、人ごみにまぎれて、そっとターゲットの背中を押す。
要するに、これもまた殺し屋だ。
 
 
ある日、鈴木が復讐しようと狙っていた男が、「押し屋」とおぼしき者の手にかかって轢死する。
それをきっかけに、鈴木、鯨、蝉の3人が、それぞれの理由で「押し屋」を追い始める。

三者三様の焦燥や葛藤が原動力となり、最初は緩やかに、次第に速度を速めながら、終盤は急速に「押し屋」へと向かって3人が集結して行く。
実は、読み始めた時は遅々としてページが進まず、あやうく途中で放り出しそうになったのだが、物語の展開が勢いを増すに従い、私の読むペースも俄然スピードアップした。
 
 
ちなみに、「グラスホッパー」とは、イナゴとかバッタとかキリギリスとか・・・要するに、バッタ的な昆虫の総称だ。
バッタは、物語の中で重要なキーになっている。

バッタの「群集相(同じ種族が密集している場所では、凶暴で特異な能力を持ったバッタが生まれてくる)」と人間の姿を重ね合わせ、都会で暮らす人間は凶暴な「群集相」で溢れかえっていて、都会は穏やかに生きて行くのは難しい場所である・・・
「押し屋」(と目されている男)が、そう、鈴木に語って聞かせる。

それで、「押し屋」は凶暴な人間を殺すことで、穏やかに暮らせる世の中にしたいのではないか、と鈴木は考え、この男が「押し屋」であると確信するに至るのだ。

「押し屋」がそんな話を持ち出すきっかけを作ったのは、昆虫カード集めに熱中する少年だった。
あまりに唐突なたとえ話を唐突でなくすために、昆虫カードは一役買ったことになる。
昆虫カードは、他にも意外な所で役に立ったりする。
単なる小道具ではないのだ。
ちゃんと、意味がある。よく出来ている。
 
 
語り手3人ともを「殺し屋」にしなかったところが、良いと思う。
一番危なっかしい、そして唯一「殺し屋」を職業としていない鈴木が、誰よりも先に「押し屋」の元に辿り着く。
鈴木の目を通して描かれる「押し屋」(と目されている男)は、実に魅力的だ。

もの静かで理知的。
実に家庭的な良き父親である。

もしも彼が、いかにも殺し屋然としたキャラだったら、鈴木は自分の身を守るために即座に組織の連中に売り渡していたかもしれない。
いや、でも、きっと、優秀な殺し屋ほど、何気ない顔をしてすぐ隣に居たりするのだ。
「いかにも」な人物が目の前に現れたら、誰だって警戒する。仕事は上手く行かないに決まってる。そうに違いない。
 
 
さて、嵐のような事件が終息し、鈴木は新しい一歩を踏み出そうとする。
最後のシーンは、駅のホーム。
駅のホームは「押し屋」の仕事場ではないか。

一抹の不安を感じたのは、私だけだろうか?

社会の裏側を覗き込んでしまった鈴木は、こちら側に帰って来られたのだろうか。
向こう側で出会った中には、なかなか魅力的な人たちも居ただけに、ちょっと心配だ。
 
 
  
その他の読書感想文の一覧はこちらからどうぞ
 

« シャドウハーツ 2 今更だけど攻略日記だ #29 | トップページ | シャドウハーツ 2 今更だけど攻略日記だ #30 »

読書感想文」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

その他のハード

ちょっと気になる