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「死神の精度」 伊坂幸太郎 著

そうですよ、また伊坂幸太郎ですよ。
この「死神の精度」は映画化されて今まさに公開中だし、つい最近、「ゴールデンスランバー」が本屋大賞に選ばれたばかり。
今、伊坂を読まずしてどうするって感じ?
 
 
「死神の精度」の主人公(というのは微妙に違う気もするが)は、死神。
おとぎ話に出て来るような、黒いローブを身にまとい、手には大鎌を・・・という、あれとはぜんぜん違う。
我々と何ら変わらぬ姿で現れ、地名にちなんだ苗字を名乗る。
死神ゆえに我々とは感覚がズレていて、時に、トンチンカンなことを口走ったりする。
大の音楽(死神的に言うとミュージック)好きで、ミュージックを聞きたいがために、面倒くさいと思いつつも人間界にやってきて、適当に仕事をこなしている。
この物語の主人公、死神・千葉に限っては、彼が仕事をしに来ている時は、いつも決まって雨降りで、千葉は晴天を見たことが無いという。

彼ら死神(死神は何人もいる)の仕事は「人の生死を判定すること」
・・・なんて言うと聞こえがいい(?)けれど、「情報部」と言われる「部署」から指示を受け、一週間後に事故や事件で死ぬ予定の人間を1人、担当させられるに過ぎないのである。
死ぬ予定の人間が、どういう基準で選ばれているかは、(部署が違うので)死神も知らないし、知ろうとする気も無いらしい。

そうして、死神は自分の担当することとなった人間と接触したり様子を観察したりして、「死」を実行するかどうかを判断する。
死神が報告書に「可」と記入して提出すればその人間は予定通りに一週間後に死に、「見送り」とすれば少なくとも一週間後には死なない。

人間にとってはとてつもなく重大な判定を担っているのだけれど、死神にとっては単なる「仕事」。
職務怠慢・・・なのではなく、(仕事なので)極めて事務的に日常業務をこなしているというスタンスなのである。

死神は総じてミュージックが好きなようで、ミュージックに夢中になるあまり、肝心の仕事の方がおざなりになって、ロクに考えもせずに「可」の報告をしてしまう死神も居るらしい。

そこへいくと、この物語に登場する死神・千葉は比較的良心的で、自分の担当する人間と1週間つきあってくれる。
(その千葉も、スキあらばミュージックを聴きに走ろうとするが)
 
 
「死神の精度」では、その死神・千葉が担当する6人の人物の最後の一週間が綴られて行く。

電機メーカーの苦情処理係に勤める電話オペレーターのエピソードから始まり、雪に閉ざされた山荘で起こる連続殺人事件やら、切なく淡いラブストーリーやらを挟んで、海を見下ろす高台で美容室を営む老女の物語へと集約して行く。

千葉の担当する人間は実に様々。
冴えないOLだったり、ナイーブな恋する青年だったり、幼少時のトラウマを抱えたキレやすい男だったり。
抱えている事情も置かれている環境もそれぞれに異なり、1つ1つのエピソードに謎がありサスペンスがありロマンがある。

そんな、てんでバラバラで雑多なエピソード群は、死神・千葉の目を通して描かれることで、独特のそして統一した色を帯びる。

なにしろ、相手は死神。
我々とは感覚が違う。
彼の目を通して見る人間の「死」は、それ以上でも以下でもない。
彼の担当する人間達の抱えて来た「人生」に対しても、死神・千葉は何の感慨も持たない。何のコメントも無い。
でも、読んでいるこちらは人間なので、千葉の担当する人間達に何らかの感慨を抱く。
言及されない、向こう側にある想いを、感じ取ることができる。

それを理解できずに首を傾げる死神との感覚のズレ。

その「ズレ」こそが、この「死神の精度」という物語の核だと思う。
「死」を扱いながらも、どことなくユーモラスで清々しささえ感じてしまうのは、その「ズレ」が在るからだ。
 
「死神の精度」は6編からなる短編集の体裁をとってはいるものの、そこは、伊坂幸太郎。この人お得意の仕掛けが仕込まれていて、単なる短編集では終わっていない。
巧いなぁ・・・
読み終えて、思わずそうつぶやいてしまった。
「仕掛け」自体はべつに目新しくもなんともないんだけども、この人がやると嫌らしくもなくワザとらしくもない。
「あぁ、そういうことだったのねぇ」と、すんなり素直に受け入れることが出来る。
月並みな表現で言っちゃうと、「センスが良い」ってことなんだと思う。

床屋の主人のセリフで幕を開けた物語が、美容師の老女のセリフで幕を下ろすのも、憎い演出。
千葉が「雨男」なのも、単なる「キャラ設定」ではない。

そうそう、「旅路を死神」で、千葉たちが奥入瀬に向かう途中で出会う「塀に落書きをしている青年」は「重力ピエロ」の春だよね。
いかにも、春が言いそうなこと、喋っているもの。
他の作品と「繋がってる」のも、伊坂幸太郎の小説では、よくあること。
その「繋がり」を見つけてニンマリするのも、ファンの楽しみの1つである。
 
 
映画化するにあたって選ばれた3編から察すると、映画は原作とは多少違った内容に仕上がっていると思われる。
それが、どう、作品に影響するのかは見てみないと何とも言えないが、死神・千葉を演じるのが金城武ってのは、悪くない。
クールで我々人間とは感覚がズレてて、どことなくお茶目に見える千葉(でもって、概ねイイ男の姿で現れる)に、これほどふさわしい人選があるだろうか。
映画館まで足を運ぶ気にはならないけど、そのうち機会があったら見てみたいと思う。

映画・・・といえば、「重力ピエロ」も映画化されるんだよね。
伊坂幸太郎の本はたくさん読んで来たけど、何を隠そう、一番最初に読んだこの「重力ピエロ」が、アタシは一番好きだから、映画化についてはとっても微妙なんだけれども・・・
息子2人の配役はともかく、お父さんは小日向文世さんなのだ。
小日向さんが、あのお父さんの最後のセリフを言うシーンだけは見てみたいなぁ。
 
 
 
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