[あらすじ]
そらりす丸に姿を現した一艘の虚ろ舟。
それは、50年前に荒れる海を鎮めるために流されたもので、源慧の妹・お庸が彼の身代わりとなって封じられたはずだった。
とすれば、お庸の魂を鎮めてやれば怪異も治まると考えた一行は、虚ろ舟の中を改める。
だが、虚ろ舟はもぬけの殻で、お庸の亡骸すら無かった。
切々と自分と妹と虚ろ舟にまつわる真実を語る源慧。
それでも、退魔の剣は反応しない。
「違う・・・」と、薬売りは言う。
この海に渦巻くモノノ怪は、お庸の怨念ではない。
薬売りのたぐり寄せたモノノ怪の「真」とは・・・
今回もまた、「醜い人間のエゴの犠牲になったか弱い女子供が、モノノ怪になって無念を訴えて来る」って話しかと思ったら、違いましたねぇ。
確かに、モノノ怪を生むのは「人の情念」であって、「死者の情念」とは、これまで、ひとっことも言ってませんでした。
ちょいと意表を突かれましたよ。
ンでは、気になった点をかいつまんで・・・
源慧の語る過去話について。
源慧と妹のお庸は、この海の近くの島で生まれ、幼い頃に両親を亡くし寄り添うように暮らしていた。
そして、仏門に入ったのは、島の人たちが決めたから。
幼い子供2人で生きて行くには、島の人たちの世話にならざるを得なかったのではないでしょうか。
だから、「せめて立派な僧侶になって島に帰って来て、育ててやった恩を返してネ」ってな感じで送り出されたのではないかと思います。
まぁ、このへんは本当なんだろうけれど、それ以外の部分は、自分に都合のいいように、源慧が脚色したもの。
ただ、源慧自身も、それが真実だと思い込んでいたから、ややこしいことになってしまっているのね。
脚色その1:源慧とお庸は深く愛し合っていた。
脚色その2:お庸への道ならぬ想いを断ち切るために、迷いを抱えつつも、修行に励んでいた。
脚色その3:島の人々の想いを察し、自ら生け贄になることを申し出た。
この3つは、大ウソ。
お庸が他の男と結ばれることを恐れ、その時に自分が抱くであろう嫉妬と絶望を恐れた
と、自分の愚かさを認めてみせる。
虚ろ舟に入る段になると、恐怖が先に立ち、自分には人柱になることなど無理だと悟った
と、いちおう、自分の弱さは認めてみせる。
自分の身代わりとなって虚ろ舟に乗ると言いだしたお庸を、涙ながらに見送るだけで、一緒に虚ろ舟に乗る勇気も無く、お庸の後を追って自害することも出来ず・・・
と、またまた、自分の弱さを認めてみせる。
そんなふうに、なかなかに手の込んだことをして信憑性を持たせていますが、
大いに納得の行かない加世ちゃん。
まぁ、納得いかないわな、普通。
それでは、薬売りさんに睨みつけられて、ようやく引きずり出されてきた本音。
島の人たちに言われて否応無しに仏門に入ったけれど、それでも修行を続けたのは、坊主になって出世すれば楽な暮らしが出来るから。
欲まみれの俗っぽい発想で、高い志など、コレっぽっちも無かった。
そして、人柱になって欲しいと頼まれ仕方なく島に戻って来たものの、死にたくないに決まってる。
そうしたら、なんと都合の良いことに妹が身代わりになると言い出したもんだから、内心、小躍りして喜んでいた。
ところが、妹は、そんな兄を心から慕っていたのだと言う。
その時、自分は愛される喜びを知った。
そして、自分の心がいかに醜いかを思い知ってしまった。
それ以降・・・
お庸が自分を恨んでいるのではないか?
純粋に自分を慕ってくれていた妹の気持ちに気付かなかったばかりか、あろう事かその気持ちを利用して自分だけが生き残ってしまった。
お庸を恐れ、そんな自分の醜い心を恐れ続けた源慧。
恐れが恐れを呼び、肥大してしまった源慧自身の心の闇。
やがて、その闇は源慧を離れて海を漂い、モノノ怪となった。
モノノ怪の「真」は、心の奥底にある自分の醜さを隠すために、本人も気付かぬうちに切り離してしまっていた、源慧の分身でした。
そして「理」は・・・
退魔の剣でモノノ怪を斬るということは、源慧の心を斬るということ。
分かれてしまった心を1つにし、彼が目を背けてしまった本心を心に戻すということ。
それでも良いか、と、問う薬売り。
「斬って下され・・・」
自分の醜さから目を背けること無く、受け入れる。
そして、切り離していた「自分の醜い心」と共に忘れてしまっていた「愛される喜び」を取り戻す。
それが、モノノ怪の「理」となりました。
薬売りによって解き放たれた源慧の半身は、元に戻る。
そこに横たわっていたのは、美しい姿の僧侶。
(源慧はどう少なく見積もっても60代後半になってるはずだから、ありゃ、いくらなんでも若過ぎだろうが)
自ら目を背けたくなるほどの「醜い自分」を取り戻したとたん、美しい姿になるというのも皮肉なもの。
というか、その「醜い自分」も含めて自分自身なのだよね。
それを無理矢理切り離したら、どうしたって、いびつになってしまう。
大事なのは、「醜い自分」を否定するのではなく、それを受け入れ、「醜い自分」に負けないよう努めること。
それが人として正しく在る、ということなんだな。
全てを受け入れた源慧は、今度こそ真に立派な僧侶になることでしょう。
二の幕で海座頭が登場したのも、海に棲むあやかしだから、という単純な理由ではなかったようで。
海座頭に「オマエの一番恐ろしいものはなんだ?」と問わせることで、モノノ怪の「真」が誰かの「恐れ」であることを匂わせていたんですね。
クリムトもどきの絵にも、やっぱり意味がありました。
あの、男女が抱き合っている絵ね。
クリムトの絵に、よく似たのがあるのです。
タイトルは「FULFILLMENT」日本語に訳すと「成就」
源慧が語っている背後に何度も出てきていたし、タイトルからしても適当に持って来たとは考えられないでしょ?
女性の方は幸福そうな表情を浮かべているのに、男性の方は後ろ姿で顔が見えません。
純粋に兄を慕い、その想いに殉じたお庸さんと、本心を誤摩化し続けて来た源慧の姿とも重なると思いませんか?
そして、足元に沈む嘆くような表情の黒い顔。
あれは、源慧が切り離してしまった「醜い自分」ということで。
けっきょく、最初から、あの絵が全てを語っていたということになりますか。
今回は、やたらめったら薬売りさんがカッコ良かったです。
薬売りが両腕を広げると、袂がふわっと広がって、蝶の羽のように見える。
その格好でヒラヒラ、クルクル、無意味に舞っていたけど、あれはいったいなんだったんだろう?
良いんだけど、意味なくても。キレイだから〜。
フレンドリーに会話してるのも良いけど、やっぱり、凄みのある表情で真実を突き詰めて行く時の薬売りは、ホント、ホレボレしますね。
「それは、真では、ない・・・」とか言って、あの目でギーッと見つめられたら、「すいませーん、なんでも喋ります、喋りますとも!」って、聞かれもしないことまでベラベラと喋ってしまいそうだわ。
念願の変身シーンも拝めたし。
便宜上「変身」と書いているけれど、変身って言うより「もう1人出てきてる」って感じなんですよねぇ。
今回は、変貌を遂げた薬売りに鏡を手渡しているカットが入って、それがどう見ても素の薬売りの手。
う〜ん、どうなっているんでしょう?
分からん。
残念だったのは、ちょっと源慧が喋り過ぎだった点。
状況から見て、彼に語らせるしか無いんだけれど、もう少し「絵」で表現して欲しかったな。
時々若い声で喋らせたりして、工夫はしているんだけどねぇ・・・
さて、事件解決の回はエンディング後も油断ならない。
折れた刀に向かって「ありがとう」と呟き、涙を流す辻斬りの侍・佐々木兵衛。
飛び散った刀の破片・・・
右目を押さえて笑う兵衛・・・
なにー、なんなの、その邪悪な笑いはっ!
源慧の穏やかな微笑みとは対極のものだわよ。
まさか、自分の心の醜さに気付き、切り離しちゃったんじゃないでしょうね?
まさか、まさか、そのせいで新たなモノノ怪を生んじゃったとかっ?
コラッ、薬売りさんの仕事、増やすんじゃないよ!
やっぱり、薬売りの仕事は、いつまでたっても終わらないようです。
難儀だねぇ。
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