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「BLACK BLOOD BROTHERS4 倫敦舞曲」  あざの 耕平 著

世間ではとっくに7巻が発売されているというのに、自分はまだこんな所でウロウロしてます。

当シリーズ長編4冊めとなる「倫敦舞曲」は、いわゆる過去話。
転化する前の「望月次郎さん」のおハナシ。
 
 
時は1895年、冬。所は大英帝国の首都・ロンドン。
留学中の大日本帝国海軍少尉・望月次郎と、その先輩・秋山真之少尉は、巷を騒がせる連続殺人事件の捜査に関わることになる。
その事件は、かつてロンドンを震撼させた「切り裂きジャック」の模倣犯で、しかも吸血鬼?と噂されていた。
事件の陰に潜む闇の世界の住人たち。
偶然、彼らと関わることとなり、次第に深入りして行く次郎。
彼は自らの剣を捧げる人と、出会ってしまったのだった。

 
 
読んでみて納得。
ジローさんの、あの「どこか間の抜けた感じ」は天性のものでしたか。
持って生まれた性質に、人里離れた山奥で、変わり者の祖父に育てられたという環境が拍車をかけて、浮世離れしたジローさんのキャラは確立された模様です。

言葉尻は馬鹿っ丁寧なくせに、どこか小馬鹿にしたようなセリフを吐いて人をけむに巻く。
優しくて、誠実で、意地っ張りで、思い込んだら猪突猛進。
心身共に鍛えられているし頼りがいは無いわけじゃないんだけど、なぁんか間が抜けていて、いまいち頼り切れない・・・
そんなジローさん像は、転化前に既に完成されておりました。

べつに、吸血気になったから、あんなキャラに変わったわけではなく、その後の100年で変わったわけでもなく。
やっぱり、この男は100年経っても成長してなかったのだ。
いや、確かに、大日本帝国海軍少尉・望月次郎は初々しいですがね。
(ケインには、キッパリ「少年」呼ばわりされてるし)
可愛くって、危なっかしくて、見ちゃいられない・・・

ジローさんが、根っからの「護衛者」だというのも、これを読んでよく分かりました。
(真之センパイに思いっきり断言されてるしな)
ジローさんが刀を振るい続けるのも、子供のころからみっちり剣術を仕込まれていた経験がベースにあるからなのですね。
明治生まれの軍人さんだと、剣術の腕前を誇るような局面はほとんど無かったはずなのに、何故、あれほどの剣技を身につけているのかという疑問も、キレイに払拭されました。
爺ちゃんに仕込まれたから。
たとえ吸血鬼となって素手でも戦えるだけの力を備えたとしても、ジローさんにとっての「武器」は刀なのね。
 
 
一方で、アリス天然説は、少々怪しくなってきました。
天真爛漫なのはそのとおりなんですがね、ああならざるを得なかったというか、ああでもしてないとやってられないんじゃないだろうかという疑念がふつふつと湧いてきました。
なにぶんにも、アリスは背負ってるものが巨大過ぎて、マトモにそいつと向き合っていたら正気ではいられないんじゃないかと思うんですわ。
あの無邪気でのほほ〜んとした態度や物言いは、彼女が生き抜くために身につけた1つの技なんじゃないか。
それを気の遠くなるほど長いこと続けて来てるから、もう、完全に染み付いて、まるで「天然」みたいになってしまっているだけなのではないか、とね、考えたわけです。
 
 
カーサ姉御の気持ちも、だいぶ分かって来ましたよ。
カーサは特異な状況で転化しているせいで、吸血鬼の中でも浮いた存在で、とても大きな孤独を抱えてる。(本当はお守役のケインも居るし、まったくの孤独ってワケではないのだろうけれど、こういうのって本人が「自分は孤独だ」って思い込んじゃうと、まわりに誰がいても目に入らなかったりするんだよね)

カーサは自分の孤独と、ずっと一人きりで生きて来たアリスの孤独を重ね合わせているんでしょう。
カーサにとってはアリスはすごく特別で大切な存在なんだけど、アリスの方は親しいことは親しいけれど、カーサが特別大切な存在かっていうと、そうでもないんだよな。
それはアリスが薄情とかそういう問題じゃなくて、アリスの存在意義からして、カーサを特別視することは出来ないんだよね。理屈抜きで出来ないものは出来ないんだからしょうがない。
それでも、カーサは自分がアリスの一番側に居ると自負していたところに、ジローさんが割り込んで来たから面倒くさいことになったわけで。
ぶっちゃけ、嫉妬だよね。
自分の居場所をジローさんに取られた格好になってしまったから。
しかも、アリスの方は、そんなことまるっきり頓着してないし。
あぁ、ホントにカーサが気の毒。
たぶん、その嫉妬が元になって、カーサの感情がどんどん変化して行って、後の大事件を引き起こすことになり、現在に至る・・・んだと思うんだけど。
今後、このシリーズを読み進めて行けば、カーサの心の変遷ももっと明らかになって行くのでしょうか。
ジローさんとアリスのバカップル100年の旅路よりも、そっちの方が気になるわ。
 
 
今回のおハナシには、実在の人物がわりと堂々と顔を出してまして・・・
次郎さんの先輩、秋山少尉は日露戦争で名を馳せた軍人。
自分は歴史通というわけでもないし、実在の秋山少尉がどのような人物だったのかは知る由もありませんが、このおハナシに登場する秋山少尉はなかなか魅力的な男です。
ブラム・ロイドは、かつてのコードネームをペンネームにして小説「吸血鬼ドラキュラ」を執筆したらしい。「ブラム・ストーカー賞」なんて、優秀なホラー作品に与えられる賞に名前が残っているほど、その筋では有名な人。
このへんの「遊び」も、楽しいです。
 
 
ジローさんのバックボーンが明らかになり、ジローさんとアリスの繋がりの強さもハッキリと見えた今作。
かなり旗色悪いぞ、ミミちゃん。
だいたい、並の三角関係じゃないからな。
むこうは転生して「弟」になっちゃっているというねじれ現象は、ミミコにとって幸なのか、はたまた不幸なのか???
とにかく、頑張れ、ミミコ。
カーサも頑張れ。(なにを?)
 
 
 
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