「ぬしさまへ」 畠中 恵 著
前回読んだ「しゃばけ」は長編だったけれど、シリーズ2作目となる今作品は短編集。
「しゃばけ」でスッカリ有名になってしまった超・虚弱体質な若旦那と、そのお守役の2人の手代(正体は妖怪)と、若旦那にまとわりつく愛嬌ある妖怪たちが今回も大活躍しております。
時系列的にも「しゃばけ」の後の出来事のようで、「しゃばけ」にチラリと顔を出した若旦那の腹違いの兄さんのその後の様子も描かれています。
短編集なので、どこから読んでも人間関係が分かるような気配りはされているのですが、やはり前作「しゃばけ」を読んでからの方が、理解はしやすいと思います。
若旦那の周囲には、どうして妖がウロチョロしているのか、とか
どうしてこんなにも虚弱なのか、とか
そのへんのネタも、すでに「しゃばけ」の方でバラされているんだけど、こちらの短編集ではそれほど詳しく語られていないんで。
今回は、わりと仁吉さんの出番が多め。
人の形をしている時には「色男」で通っている仁吉さんだけあって、色恋がらみのお話が2編。
特に「仁吉の想い人」では、意外な一面を見せてくれました。
一途なんだねぇ、仁吉さんは。
叶わないと知っていても、千年も想い続け、何も言わず見守っているだけだなんて。
なんとなく、切なくなるような、虚しくなるようなエピソードばかりが並んでいるのが、ちょっと気になるところ。
若旦那をはじめ、この顔ぶれだったら、「おもしろオカシイ出来事の裏に、ピリリと辛い世の無情が隠れてたりして、それに若旦那が気付いてしみじみする・・・」くらいのバランスの方が良いような気がします。
登場人物が魅力的なのももちろんだけれど、江戸風俗の描写が秀逸なのも、私がこのシリーズを気に入ってしまった理由の1つ。
読んでいると、時代劇でしか見たことの無い江戸の街並が、そこを行き交う人々の姿が、脳裏に浮かんで来るような気がします。
甘い物好きの岡っ引きが、若旦那を訪ねて来るたびに饅頭をしこたま食って帰ったり、それを妖怪たちがイヤな顔して見送ったり、そんな描写から「昔は甘いものが貴重だったんだなぁ」と自然に理解できます。
そして、そんな甘い菓子を日常的に食している若旦那は、いかに裕福な家のお坊ちゃんであることか。
なにはともあれ、若旦那は今回も頑張ってます。
「しゃばけ」の時に比べると、若旦那の推理力には磨きがかかり、少しオトナになったようにも見受けられます。
恵まれた環境に生まれ育ち、とにかくひたすらに若旦那を甘やかす両親や手代たちに囲まれていても、それに甘えていないのがこの若旦那の偉いところで、このままではダメだ、1人でどうにかしよう、と、一生懸命で好感が持てます。
若旦那が甘やかされっぱなしのグータラ息子だったら、こんな人気者にはなれなかったでしょうね。
このシリーズはまさに絶好調のようで、この後も続々と刊行されています。
単なるお江戸を舞台にした謎解きもの(妖怪風味)というだけでなく、若旦那の成長物語でもあり。
個性豊かな登場人物や妖怪たち、江戸の風景や人々の営みの細かな描写。
続けて読みたい!と思わせる魅力に溢れたシリーズであることは間違い無いです。
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