「アヒルと鴨のコインロッカー」 伊坂 幸太郎 著
またまた、伊坂幸太郎。
もう、完全に「私の好きな作家」として定着。
書店でこの人の本を見かけると、躊躇すること無く手に取り、レジに直行するようになってしまいました。
では、軽くあらすじなど。
主人公は大学入学を機に一人暮らしを始めることになった青年・椎名。
もう1人の主人公はペットショップで働く女性・琴美。
椎名は、引っ越し当日、同じアパートの隣人に挨拶に行く。
その隣人が、かなりの変人だった。
初対面の彼に向かって「一緒に本屋を襲わないか?」と、持ちかけて来たのだ。
ターゲットは一冊の広辞苑。
見ず知らずの青年に強盗の片棒担ぎを依頼し、ねらう獲物は広辞苑1冊だけ。
それだけでも、かなり狂っている。
おまけに、彼に声をかけた理由は「ディランを歌っていたから」ときた。
普通なら、丁重にお断り申し上げて、以後、極力接触しないよう心がけたい人種だろう。
ところが、そういった人物は何故か悪魔的とも言うべき魅力を併せ持っているものだ。
「恐いもの見たさ」とでも言うのだろうか、けっきょく椎名はその隣人・河崎の申し出を受け入れ、本屋襲撃の共犯者となってしまう。
その後も、何故か椎名と河崎の交流は続く。
そして、椎名の周囲で奇妙な出来事が次々と起こり始める。
一方の琴美さんの物語。
こちらは、椎名くんの物語よりも2年前の出来事とされている。
ふとしたきっかけで、巷を騒がせていたペット殺しの容疑者とおぼしき若者たちに付け狙われることになってしまった琴美さんと、その恋人であり、ブータンからの留学生でもあるドルジを中心に物語が進んで行く。
そして、そこに琴美さんの元カレ河崎がからんでくることになり、何故かドルジが河崎と打ち解けてしまったおかげで奇妙なトライアングルが成立することになる。
2年前、非常に危険な状態にあった琴美さんは、いったいどうなってしまったのか?
椎名くんと琴美さんの物語に共通して登場する人物も居る。
誰が居なくなって、誰が居るのか。
何が変わり、何が変わっていないのか。
どうして河崎は、書店から広辞苑を奪わなければならないのか。
初めての一人暮らしに期待と不安でいっぱいの青年の身に降り掛かった、奇妙な出来事の正体は・・・?
時間軸のズレた2人の物語が平行して語られていく。
いいかげん伊坂作品に慣れてきている私にとっては、こういった構成は「また、やってるなー」ってなもんだ。
今回は、最初から2年のズレがあることが明記されているから、さほど混乱は無かった。
物語自体は、それほど複雑なものではない。
ただ、登場人物(特に過去組の3人)の背景は多彩で、複雑で、非情である。
留学生ドルジの故郷とされているブータンはもちろん実在の国だが、この物語の中の「ブータン」は作者が現地を訪れた際に受けたイメージを膨らませて作った架空の国とのことだ。
日本とは異なる風習や宗教観、思想を持った異邦人のドルジは、実におおらかで心優しく、そして異邦人故の孤独も抱えている。
常にエキセントリックな魅力を振りまく河崎の言動は、さらに複雑だ。
次々と女性の元を渡り歩き、「自分の目に映るものしか信じない」と豪語する彼。
その彼が自分が深刻な病を抱えてしまっていると知った時、自分が病に罹っていることよりも、誰かに伝染してしまったのではないかという恐怖と罪悪感に苦しむことになる。
この物語の真の主人公は「河崎」なのだろう。
終盤、とある人物に「アナタは途中参加しているだけ」と言われてしまう椎名くんは、やっぱり傍観者に過ぎなかった。
ただ、彼らの物語に途中参加することで、椎名くんは確実に何かを感じ取り、1つオトナになったことと思う。
分類するとすれば、たぶんミステリーというジャンルに入れられてしまうのだろうけれど、単なる「謎解きもの」の枠には収まり切らない人間ドラマがちりばめられている。
かといって、説教くさくもない。
伊坂節とも言うべきテンポの良い会話や、思わずニヤリとするユーモアもふんだんに盛り込まれていて、とっても読みやすく、何より、読者をぐいぐいと物語に引き込んでいく力は圧倒的だ。
伊坂作品にしては珍しく「清々しい」とは言いがたい幕切れだったけれど、面白かったことだけは間違いない。
この本を読んでいる時には全然知らなかったのだが、これ、映画化されているそうで。
いやー、どうやって、これを映像化したんだろう?
かなり無理があると思うんだけどね・・・
見たらガッカリしそうだから、自分は見ないことにするよ。
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