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「ラッシュライフ」 伊坂 幸太郎 著

キーワードは「バラバラ」である。
そして、「バラバラ」が「くっつく」のだ。

コイツ、何、言ってんだ?
と、お思いのそこのアナタ、この小説を読めば、私の言っていることもあながち的外れじゃないってことがお分かりいただけると思う。
 
 
ごくありふれた地方都市で、縁もゆかりも無い人たちが、何食わぬ顔ですれ違って行く。
今すれ違った人が、どんな事情を抱え込んでいるかなど分からない。分かるはずも無い。
でも、まったく無縁と思われた人たちの人生が、ホンの一瞬交差する。
誰かの起こした小さなアクションが、他の誰かにささやかな影響を及ぼす。
無関係だと思っていた出来事が、実はホンの少しずつ繋がっていた。
そう。「バラバラ」が「くっつく」のである。
 
 
とにかく登場人物が多い。
おまけにほとんどの登場人物が同じ比重でもって描かれ、その人の目線でエピソードが語られて行く。
そのエピソードも途中でぷつっと途切れ、他の人の話しに移行してしまう。
おかげで、「あれ、この人は泥棒だったっけ?それとも失業者だったっけ?」と、最初のうちは場面が切り替わるたびに混乱していた。
が、次第に人物像を把握できるようになり、めまぐるしい視点変更にも慣れた。

主軸にあるのは、失業者・豊田さんのエピソードと、絵の得意な青年・河原崎のエピソードだろう。
そこに不倫相手の妻を殺そうと企むカウンセラー・京子さんや、プロフェッショルな泥棒・黒澤さん、金で買えない物は無いと言い切る画商・戸田氏のエピソードが絡んで来る。
さらに、それらを繋ぐためのサブキャラまで居るのだから、読んでいる方は頭を整理するのに忙しくてしょうがない。

最初は同時進行だと思っていたそのエピソード群が、実は時間がちょっとズレていることに、やがて気付く。
読み進めて行くうちに、「これ」と「あれ」はこんなふうに繋がっていたのか!と何度も驚かされ、最後の最後でこの物語の全貌が明らかになる。

世にも奇妙な事件や奇跡のような出来事の裏には、種を明かしてしまえば「なぁんだ、そうだったのか!」と呆れてしまうような、なんてこと無い事実が隠れていた。(だからといってガッカリするようなことは無い。むしろその「繋がり」に感嘆してしまう)

ちょうど、ジグソーパズルのピースが1つずつはまって行くようなカンジで、そうして出来上がった絵を見渡した時の達成感と言ったら無いのだ。
 
 
この物語には、他の伊坂作品のパーツがチラリと顔をのぞかせている。

喋るカカシに守られた島に迷い込んだ青年・伊藤が銀座の画廊に姿を現したり、陽気なギャングたちが巻き込まれた爆破事件がサラッと語られたり。

プロフェッショナルな泥棒・黒澤さんは、探偵にジョブチェンジして「重力ピエロ」で一仕事している。(カウンセラーへの転身は、京子さんに一蹴されて諦めたのだろうか?)

ファンなら思わずニヤリの嬉しい趣向。
繋がる広がる伊坂ワールド、だ。
 
 
清々しい幕引き・・・というのは、伊坂作品の特徴の1つだろうか?

登場人物のうちの何名かは完全に人生に破綻を来たし、失業者・豊田さんの未来も明るいんだかどうなんだかよく分からないにもかかわらず、最後の豊田さんのくだりで私は号泣し、実にスッキリさわやかな気分でこの本を読み終えることができた。

イッツオールライト。
良い人生を。

 
 
 
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