「華胥の幽夢」 小野不由美 著
まずは、このシリーズをご存じない方のために「十二国記の基礎知識」から。
物語の舞台は、昔の中国を思わせるような文化を持つ十二の王国で構成される架空の世界。
なんと、子供は親から生まれるのではなく木に実る・・・という、カナリぶっ飛んだ世界である。
どうも、この世界はパラレルワールド的存在のようで、日本とは密接なつながりがある。
時々、その境目に綻びが生じて、誰かが流されてしまったりする。
それぞれの国には、「王」と「麒麟」が居る。どちらも、一国につき1人&1匹(?)のみ。
各国を治める「王」は、天の意によって定められていて、それを見付け出すという重要な役割を担うのが「麒麟」。
麒麟は慈愛に満ちた生き物で、血なまぐさい事件が起こると、とたんに具合が悪くなってしまったりする。
麒麟はふだんは「人」の姿をしていて、男だったり、女だったり、美青年だったり、やんちゃな悪ガキだったり、色んなバリエーションがある。
その性格も様々で、神様の御使いみたいな位置づけなんだけど、恐ろしく個性的。
王として即位した者は、不老不死の身となる。ただし、統治に失敗し国が傾くと、その限りではない。
失策をやらかした王が死ぬなりなんなりして王位が空くと、麒麟が新たな王を捜し出す。
しかし、国が傾くと麒麟は病気になり、死んでしまうこともある。
その場合、次の麒麟が生まれて、王を選べるまでに成熟するのを待たなければならない。
その間、その国は麒麟も居なきゃ、王様も居ないっていう最悪の状況に置かれて、国土は荒れ果て大混乱。たくさんの人が路頭に迷い、化け物まで溢れ出して、もうズタボロな状態に陥る。
よーするに、新しい王様が即位するのは、決まって前の王様がヘマをやらかして国がグチャグチャになってしまっている時なのだ。
だから、この世界の王様はとっても大変。玉座にふんぞり返っていればいいってもんじゃない。(一部、それっぽい王様も居ますが)
即位直後から、大忙し。
どうにか建て直した国を維持するのに、また一苦労。
おまけに、失敗は、すなわち自身の身を滅ぼすという仕組み。
マトモな神経の人には、やってられない激務といえる。
「十二国記」シリーズでは、そんな世界で生きる「王」と「麒麟」とその周囲の人々の様子が、ドラマチックに描かれています。
体裁は「東洋風味のファンタジー」なんですが、かなり重厚な作りになっていて、深く考えさせられる部分も多々あります。
元々は少女向けの作品だったものが、オトナの女性のみならず男性にも広く受け入れられるようになったのも頷けます。
今回、私が読んだ「華胥の幽夢」は、シリーズ中唯一の短編集です。
一番良かったのは、「華胥」かな。
少しミステリー仕立てで、1つの王朝が倒れていく様子が描かれていて圧倒されました。
他に、自分の役割について悩む泰麒の「はじめてのおつかい」を描いた「冬栄」
とまどいながらも王としての道を歩き始めた陽子と、彼女を支える楽俊との友情を描いた「書簡」
長く続いている王朝であればこその不安を描いた「帰山」
等、5編が収録されています。
短編集だから取っ付きやすいかも・・・などと思って、初心者の方がこの短編集に手を出すのは、絶対にやめましょう。
他を読んでいないと、人間関係がサッパリ分からないですから。
オススメはやっぱり、刊行順通り「月の影 影の海」から読み始めることです。
「月の影 影の海」は、普通に女子高生していた陽子が、十二国に放り込まれて踏んだり蹴ったりな目に遭うお話しです。
ありきたりのファンタジーだったら、カッコいい青年剣士あたりがエスコートしてくれちゃったりするんでしょうけど、これに出てくる美青年は、勝手に陽子を迎えに来ておいて自分は行方不明になっちゃう始末。
そのおかげで、陽子はとんでもない苦労を強いられることになります。
色恋沙汰とはまったく無縁だし、えらい強くなっちゃって・・・
そこが、この物語の面白いトコロなんですけどね。
「華胥の幽夢」以降、当シリーズの新作はパッタリ途絶えてしまっています。作者に関する情報もほとんど入って来ないので、この先どうなるのか・・・?
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