「スカイ・クロラ」 森 博嗣 著
不思議な小説だ。
全編を通して、霧の中をさまよっているような不安感が漂っている。
以前「すべてがFになる」を読み、その後、書店に並ぶシリーズをザッと眺めて、この作家は「本格推理小説」を書く人だと思っていた。
でも、この「スカイ・クロラ」はずいぶんと趣が違う。
物語は、主人公の一人称で淡々と進んで行く。
よけいな描写は、一切無い。
いくつかのエピソードが(あくまで)主人公の目線で語られ、モヤモヤとしたまま物語は進み、やがて一気に終局へ向かう。
この小説を読みながら、不安な感じを抱き続けたのは、語り手である主人公自身がフワフワと頼りない存在だからなのかもしれない。
物語の舞台は、近未来の(恐らく)日本。
それだって、ハッキリとは説明されていない。
現代の日本では無いけれど、生活様式が今とさほどかけ離れてはいない様子だから、「そう遠くない未来」と判断しただけだ。
主人公の「戦闘機乗り」は、とある民間企業に所属し、戦闘行為を行っている。
敵が何者なのかは、ずっと後になるまで分からない。
国家の軍隊ではなく、なぜ企業が「戦争」をしているのか。
その答えも、最後になって明かされる。
そして、「キルドレ」という存在。
(それが何者であるかは、私がここに書くべきではないだろう)
それらは全て、話しの流れでそれらしいセリフが出てきて、読んでいる方はそこから事実を汲み取って「あぁ、そういうことだったのか」と納得する仕組みになっている。
世界観を事細かに描写する。
主人公の置かれた状況を説明するために、歴史的背景から語り始める。
1つ1つのエピソードをいろいろな視点から描いてみせる。
そういう手法も、小説としてはアリだ。
むしろ、そっちが普通かもしれないし、読者にも伝わりやすい。
でも、あえて書かない。説明を加えない。
それで伝わらなかったら元も子もないのだけれど、この小説は主人公たちの生きている世界を描くことに見事に成功している。
やがて、霧は晴れる。
その瞬間、私は不安から解放される。
たとえ、そこに待っていたのが、澄み切った青空でなかったとしても。
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