「重力ピエロ」 伊坂幸太郎 著
親子の絆を謳った作品は珍しくない。
たいていは、血のつながりが如何に強いかを訴え、感動を呼び起こす種類のものだ。
けれど、この物語は「血のつながり」というものに対して「NO!」と宣言する。
主人公・泉水には、父親の違う弟・春が居る。
この弟の春は、実に複雑な事情を抱えて生まれてきている。
もしかしたら生まれていなかったかもしれない・・・くらいの、重過ぎる事情だ。
泉水が遺伝子情報を扱う会社に勤めているのも、彼らの家庭の抱えていた「事情」のせいかもしれない。
血縁というものに、大きな疑問と恐怖を抱いていたからこそ、興味も惹かれたのではないだろうか。
あるいは、泉水は早くから自分の目的を明確にしていて、それを実現するためにこの会社に身を置いていたとも考えられる。
(ネタバレを避けるため抽象的な表現になっています。すみません)
いずれにせよ、泉水にとって弟の春は、とても重くて、とても大切な存在であることに間違いは無い。
そして、いつか自分の前からいなくなってしまうのではないか、そんな不安を抱えていたのだと思う。
泉水の住む町では、連続放火事件が発生していた。
放火現場のすぐ近くには必ずグラフィティアート(落書き)があり、これらには密接なつながりがあると春が言い出したことから、物語は動き始める。
放火事件と壁の落書きを巡る謎は、ガンで闘病中の父をも巻き込み、やがて、泉水は落書きに秘められた暗号に気付く。
そうして、泉水と春、父の3人はそれぞれの道を辿って1つの結論に辿り着く。
泉水と春やその父とのやりとりが絶妙で、彼らがいかに仲の良い家族であるかを物語っている。
兄と弟のキャラクターも良いのだが、特に、その父が素晴らしい人物だ。
その父の良さを瞬時に察知してほとんど押し掛け女房となった2人の母もまた、(故人ゆえ、思い出話しの中にしか登場しないが)素敵な女性だったのだろう。
物語の終盤、真相を知った泉水と春が病床の父を見舞うシーンで、父が春に向けて言った最後の一言で、私は泣いてしまった。
その一言に込められた父の想いは、きっと兄弟を救ったことだと思う。
最近、ニュースを見ていると、家庭内で起こる事件がとても眼につく。
親が子を殺したり、その逆もあり・・・
そういった家庭に欠けているものは、何なのだろう?
それぞれに様々な事情や背景があって一概には言えないだろう。
ボキャブラリも貧困故、陳腐な言葉しか出て来ない。
それでも、あえて言うなら、足りないのは「愛情」であり「思いやり」なのではないかと思う。
家族というのは、もっとも近くに存在する他者だ。
もっとも感情をぶつけられる相手であるが故に、傷付けてしまうこともある。
他人であれば、「なんだ、コイツ?!」と思えば、付き合わなければいいだけのことだが、家族ではそうもいかない。
少々ムカつきながらでも、イライラやゴタゴタを抱えたままでも家族が楽しく暮らして行けるのは、根底に相手を思いやる気持ち、愛情があるからだ。
多少のことは眼をつぶって許してしまえるのは、それ以上にもっと大切なものを家族が与えてくれるからではないか。
血のつながりは、あっても無くてもいい。
いろんなカタチの家族があっていいはずだから。
大切なものを失ってしまえば、たとえ血がつながった者たちが同じ屋根の下に暮らしていても、それはもはや家族ではない。
この小説を読み終えた後、私はそんなことを考えた。
衝撃的な内容を含んでいるにもかかわらず、読後感は悪くない。
むしろ、清々しくさえ思えた。
泉水と春。そして、2人の両親。
彼らは最強の家族だ。
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